Root Canal Treatment
精密根管治療
虫歯が進行し、歯の根にある神経に細菌感染が及んでしまった歯の治療を「根管(こんかん)治療」と言います。感染が神経に達した歯は、炎症や感染を起こし、強い痛みや腫れを伴うだけでなく、早期に治療を行わないと、最終的には抜歯が必要になり、大切な歯を失う大きな原因になります。
1㎜にも満たない根管内の治療は非常に困難ですが、マイクロスコープやCTなどを用いて精密な処置を行うことで、治療の成功率を高めることが可能です。
従来の根管治療では、抜歯になってしまうような難しい症例でも、抜かずに保存できるケースもありますので、重症の虫歯や、虫歯の再発にお悩みの方はぜひ当院にご相談ください。
1.精密根管治療とは?
歯の根にある「根管」は、直径が1㎜以下の非常に小さな空間で、その中には「歯髄(しずい)」と言われる神経が通っています。
根管治療は、「歯内(しない)療法」とも言われ、細菌に感染した歯の神経や細菌、過去の治療で詰めた古い充填材などを取り除き、殺菌して清潔な状態にしてから被せ物で密閉する治療です。
感染によって引き起こされる腫れや痛みといったつらい炎症を抑えるとともに、ご自身の歯を抜かずに保存できるのが大きなメリットです。
正確で繊細な処置が求められる根管治療ですが、根管内は、暗くて狭い上、クモの巣のように複雑な形態をしていることから、肉眼やルーペ(拡大鏡)で根管内の正確な状態を把握することは不可能です。
そのため、従来の根管治療では、レントゲン画像を基に、医師の経験や勘に頼り、治療を進めなければならず、根管の状態によっては治療期間が延びて何か月もかかってしまうほか、処置が不十分だと再感染を起こし、再度、治療が必要になるケースもありました。
当院では、治療の精度を上げるため、マイクロスコープを用いた精密な根管治療を実施しています。マイクロスコープを使用すると、根管内の状態を正確に把握し、実際に目で確認しながら処置ができるので、裸眼で行う治療に比べ、治療の精度は格段に上がります。
感染部位や汚染物質を正確に取り除くことで、再発のリスクが大幅に減る上、確実に治療を進めることができるので、治療期間を短縮することも可能です。さらに高性能な機器や材料を駆使することで、これまでは抜くしかなかった歯も、保存できる可能性が高まるなど、マイクロスコープによる精密な根管治療には、数多くのメリットが期待できます。
精密根管治療のおもな特徴
- マイクロスコープによる精密な診断・治療
マイクロスコープは、患部を3~30倍に拡大して観察することができます。
さらに強力なLEDライトが明るく照らすことで、根管の状態が細部まで見やすくなるため、正確な診断・治療が可能です。
治療の精度が上がることで、感染部位や汚染物質の取り残しを防ぎ、再発のリスクを下げるほか、大切な歯の削り過ぎも予防することが可能です。 - 歯科用CTによる正確な診断
根管の形状は人それぞれ異なり、マイクロスコープを使っても見つけにくい特殊な形態をしている場合があります。根管治療を行う前は、歯科用に開発されたCTで三次元的に歯の根の形態を確認し、患部の根管の長さや神経の通り道などを立体的に把握しておくことで、正確な診断や精密な治療が可能になります。 - ラバーダムによる防湿
「ラバーダム」は、歯科治療時に使用するゴム製の防水シートで、治療する歯だけを露出させることができるようになっています。
根管治療時、唾液に含まれる細菌が根管内に混入してしまうと、再発のリスクが高くなるため、ラバーダムを適切に装着し、歯の周りを消毒するなど、できるだけ無菌に近い状態で治療を行うことが重要です。また、ラバーダムには、薬剤が口の中に流れ込むのを防ぐ効果や、処置に使う小さな器具の落下を防ぐといった効果もあり、治療の安全性を高めるためにも有効です。
2.精密根管治療をおすすめする場合
以下のような項目に当てはまる方は、精密根管治療をおすすめします。
強い歯の痛みや歯茎の腫れがある
重度の虫歯や外傷などで歯髄に感染が広がった歯は、強い痛みや腫れが起こります。
放置していると歯髄が壊死(えし:組織の細胞が死んでしまう)したり、歯槽骨(しそうこつ:あごの骨)の中に炎症が広がってしまったりする可能性があるため、早期の根管治療が必要です。
過去に治療をした歯に痛みや腫れ、膿などの症状がある
過去に治療をした歯に、再び痛みなどの症状が出る場合には、根管の中で再感染が起きている可能性があります。このような場合、一度、被せ物を外してから、根管内の細菌や充填物を取り除き、細菌が入らないように再度密閉する治療が必要になりますが、処置が不十分だと何度も症状を繰り返すことがあるため、精度の高い精密根管治療が有効です。
虫歯が進行し、通常の保険治療で抜歯が必要と言われた
使用する材料や処置の内容が限られている保険診療では、やむを得ず抜歯になってしまう場合でも、マイクロスコープなどの精密機器や高品質の材料を制限なく使用できる精密根管治療(自由診療)では、抜かずに維持できる可能性があります。
保険治療で行っている根管治療がなかなか終わらない
裸眼やルーペで行う根管治療の精度には限界があるため、治療期間が延び、なかなか終わらないというケースも少なくありません。精密根管治療(自由診療)では、マイクロスコープを使用して正確な状態を把握し、治療を確実に進められるため、治療期間を短縮することが可能です。
ご自身の大切な歯をできるだけ長く維持したい
虫歯の治療と再発を繰り返していると、その都度、歯を削ることになり、最終的に大切な歯を失う可能性も高くなります。繊細な治療ができる精密根管治療は、歯を削る量を最低限に抑えることができる上、精度の高い治療で再治療のリスクを減らすこともできるので、ご自身の大切な歯質を守ることが可能です。
3.当院の精密根管治療の特色
当院の精密根管治療には以下のような特色があります
米国式根管治療のシステムを採用
当院では、「マイクロスコープ」「CT」「ラバーダムによる防湿」を3つの柱とする「米国式根管治療」のシステムを導入しております。日本国内のマイクロスコープの普及率は、わずか数%に過ぎませんが、歯科医療の進んでいる米国では、専門医が根管治療を行う際、マイクロスコープの使用が義務化されており、日本の歯内療法学会でも「米国式根管治療」が推奨されています。
治療器具の滅菌及び消毒の徹底
使用する治療器具は、滅菌及び消毒を徹底的に行います。
可能なものは、ディスポーザブル(使い捨て)の器材を使用します。
優れた機器・高品質な最新の材料を使用
当院では、より治療の質を高めるため、保険診療では使用できない高品質な器具や高品質な充填剤などを導入しており、歯の状態に合わせ、最適な治療を受けていただくことが可能です(自由診療)。
- ニッケルチタンファイル(※自由診療)
根管内の汚染物質などを取り除き、内部をきれいにするための治療器具を「ファイル」と言います。ニッケルチタンファイルは、通常の保険診療で使用するステンレス製のファイルに比べ、柔軟性に優れており、形状記憶機能が高いので、湾曲の強い根管でも先端部分までスムーズな治療が可能です。 - MTAセメント(※自由診療)
MTAセメントは、強アルカリ性(PH12)で、強い殺菌作用のある歯科用セメント(充填剤)です。
根管を密閉する際、通常の保険診療では、樹脂製の充填剤(ガッタパーチャ)を使用しますが、複雑な構造の根管内を完全に封鎖することは難しく、中には再感染を起こしてしまう場合もあります。
MTAセメントは、固まる時に膨張する性質をもち、高い封鎖性があるため、ヒビの入った根管なども確実に密閉できるのが特徴です。また、人体に馴染みやすいことから、歯の組織を再生する効果も期待できます。さらに、MTAセメントを使用することで、進行した虫歯でも歯髄が保存できるケースが増えることから、歯の強度を保ち、寿命を延ばす効果も期待できます。
(※全ての症例で歯髄が保存できるわけではありません) - バイオセラミックシーラー(※自由診療)
MTAセメントと同じく、固まる時に膨張する性質があり、封鎖性の高い充填剤です。
流動性が高く、根管内の隅々まで行き渡らせることができるので、細菌の繁殖しにくい環境を作ることが可能です。また、歯質の削る量を抑えることができるので、歯の強度を維持する効果も期待できます。
画像や動画を使用した分かりやすい説明
当院では、言葉だけでなく、写真や動画、さらには説明専用のアニメーションなども使用し、どこよりも分かりやすい説明を心掛けています。
CTやマイクロスコープによる診断を基に、病名や原因、治療内容や治療期間、リスク、費用などを丁寧に説明させていただき、しっかりと計画を立てた上で治療を進めてまいります。
治療開始後には、治療時に撮影した写真や動画を用い、毎回カウンセリングルームで処置内容の説明を行いますので、安心して治療を受けていただくことができます。
4.精密根管治療の流れ
当院の精密根管治療は以下のような流れで行います。
1.根管内の清掃・殺菌
ファイルという器具を用い、歯の根管内部にある神経や傷んでボロボロになった象牙質、さらに溜まった膿などを掻き出して丁寧に取り除きます。根管内を薬剤で殺菌・洗浄した後、消毒薬を詰め、仮のフタをして閉じます。
根管内の状態が改善し、管内が完全にきれいになるまで、この治療を数回繰り返します。
2.根管充填
根管内が完全にきれいになったら、十分な殺菌を行い、歯の機能を維持するために充填剤(ガッタパーチャ、またはMTAセメントやバイオセラミックシーラー)を詰めて密閉します。
しっかり密閉できないと、再感染の恐れがあるため、確実に封鎖することが重要です。
3.補綴(ほてつ)治療
歯の内部に土台となる柱を立て、型をとって補綴物(被せ物)を作ります。
完成した補綴物をしっかり装着して終了になります。
型を取って被せるまでの回数は、被せ物の素材より異なりますが、1~3回が目安です。
5.Q&A
1)一回の治療時間はどれくらいですか?
当院では、精密根管治療を行う場合、1回の治療に付き、60分程度のお時間を頂いております。
精密根管治療では、たくさんの機器や道具を使用し、裸眼では見ることができなかった歯の根の先端までしっかり確認します。マイクロスコープを使用すると、過去の治療で使用した充填剤や、歯ぎしりなどの強い力がかかることで起こる歯根のひび割れ(歯根破折)なども見つけることができ、細部まで丁寧に処置を行っていくため、通常の診察に比べ、治療時間は長くなります。
2)精密根管治療には何回くらいの通院が必要になりますか?
治療にかかる回数は、診断名や難易度によって変わるため、一概には言えませんが、2~5回程度の通院が目安となります。
ただし、根管治療は治療が終わってからの経過がとても重要です。きちんと治癒に向かっているかを継続して観察する必要があるため、当院では、3か月、6か月、1年後に検診を行っています。
3)ラバーダムを使ったことがありませんが、精密根管治療では必ず使用するのですか?
ラバーダムは、治療する歯以外を覆うことで、細菌感染を予防する高い効果があります。
ラバーダムを適切に使うと、無菌に近い状態での処置が可能になるため、根管治療の成功率を大幅に上げることができます。
私が調べた文献によると、ラバーダムは1964年から米国で歯科治療にすでに使われており、特に新しい材料ではありませんが、保険適用ではないため日本では馴染みが薄く、国内の使用率は5%程度と非常に低いのが現状です。しかし、近年ではマイクロスコープ診療の普及などに伴い、ラバーダムを使う歯科医院も増えてきており、ラバーダム防湿を行ったことがある患者さまも徐々に増えてきています。
4)マイクロスコープやCTを用いる精密根管治療はすべて自由診療になりますか?
当院では、保険診療・自由診療にかかわらず、マイクロスコープを使用しています。
マイクロスコープとCTを併用する根管治療は、特殊な場合を除き、原則、自由診療で行われていましたが、2020年に行われた診療報酬の改定*1により、限定的ではありますが、保険適用が可能になっています。
*1 厚生労働省 令和2年度診療報酬改定の概要(歯科)
ただし、保険適用外の器具や材料(MTAセメント、バイオセラミックシーラー、ファイバーコア、セラミックなど)を使用する場合には、自由診療となります。
保険診療に比べると費用は上がりますが、治療後の経過が良好で、歯を長持ちさせる効果が高いなど、優れた器具や材料を制限なく使用する自由診療ならではのメリットもたくさんありますので、患部の状態などに応じて検討されると良いと思います。
当院では、治療内容や費用について事前に詳しい説明を行い、十分ご納得を頂いた場合にのみ、治療を開始します。費用についてのご不安や疑問などがありましたら、医師やスタッフにお気軽にお尋ねください。
※費用について御確認ください。保険適用になる場合でもラバーダムやチタンファイルなどは使用されるのでしょうか?
精密根管治療の治療費は現在も検討中です。保険診療でも、ラバーダムは必ず使います。ファイルはその場に応じて判断しますが、自由診療の場合は全て新品の機材を使用します。
6.院長からひと言
私がマイクロスコープを使った診療を始めたのは、大学を卒業後3年目になります。
始める前は、歯科医師の私ですら、マイクロスコープのどこが優れているのか疑問でしたが、現在では、顕微鏡で拡大して治療することの計り知れないメリットを日々の診療で実感しており、裸眼で行う治療に比べ、治療の精度はさらに向上していると思います。
今や、当院にとってマイクロスコープは、必要不可欠な精密機械であり、全体の9割以上の治療に使用しています。その中でもマイクロスコープの威力が最も発揮されるのが、より正確で緻密な治療が求められる根管治療になります。
最近は、患者さまの方から「マイクロスコープを使った治療が受けたい」というお声をいただく機会も増え、皆さまのお役に立てることを大変嬉しく思っております。
今後も、多くの患者さまの大切な歯の健康を守るために、質の高い精密根管治療を提供していきたいと考えています。